[生活芸術]一筆書きの針金招き猫
一筆書きの要領で作った針金の招き猫作品「全てつながりニャンとなる」を、招き猫美術館さまに収蔵していただきました。
招き猫は台布に縫い止められており、取り外し可能な猫の手を模したハンガー「猫の手も借りたい」が付属しています。
一筆書き…。
なぜか惹かれる表現方法です。初めて一筆書きで描いたのは大学生の頃の阿弥陀籤(あみだくじ)に添えたイラストだったはず。そして針金での一筆書きは、10年以上前。年賀状用に制作した猪が初でした。猪を作ったら面白くなって、数日かけて職人さながらに床の上にあぐらをかいて一気に10点ほど制作しました。それがこのサイトでも紹介している「Bestiary 動物寓意譚」に登場する動物たちです。
一筆書きは一続きの線で作るため、制約が生まれます。しかし制約があるからこそ、自分の意図を超えたものが生まれてくる。そこにとても魅力を感じています(たぶん)。台にした布は、私が着ていたウールのズボンをほどき使用しました。生活道具として使われていたものには、新しい素材にはない力があり、私は作品の材料としてしばしば用います。
ロゴマークも刺繍しました。ひょろっとしていますが何気に難しくて何度も刺し直しました…。
この招き猫が、スタッフの皆さまやお客さまと美術館で共に時間を過ごし、時を経て骨董のようになったらよいなと思っています。「時と共に変化していくこと」は、一筆書きの制約同様、なぜか心ひかれるものの一つ。時間が目に見えるからでしょうか…。
さてこの作品、実は手遊びから生まれたものなのです。
あるとき、学芸員の比斗子さんがアトリエにお越しくださった折、一筆書きの針金作品をお見せしたところ、興味を持ってくださいました。そして後日、不意に手遊びでこの招き猫を作ってみたのです。それをお披露目したところ、光栄にも美術館にお迎えしたいと申し出てくださいました。
作品はハンガーでそのまま壁にかけられますが、比斗子さんは額装のご提案をしてくださいます。画材屋さんへお願いするという話でまとまったものの、ぼんやりと「時と共に変化していくこと」というキーワードを考えていたとき、古材などを利用して作家活動をしているキノワさんのことを思い出しました。
そうして生まれたのがこちらの額装です。材には、作り手のいなくなった木工作家の工房で眠っていた柿の木が使われています。打ち合わせで私が気に入った流木の質感と似ているものを探してくださいました。古材は全く同じものはなく出会いは一期一会です。打ち合わせしてから材が見つかり額装が仕上がるまで、実に半年近く。その間招き猫は、キノワさんの工房でどのような時間を過ごしていたのでしょうか?
キノワさんは、招き猫は可愛らしいけれど神聖な印象もあると感じ、猫に視線が集まるようにと額に段を沢山つけたのだそうです。この段々! 私はアテネのパナシナイコ競技場を思い出しました。豆サイズの人間になって、この段々に座って眺めたい。木材の質感もとっても美しくて、ずっと撫で撫でしていたかったです。
楽しく作りましたという言葉もとても嬉しかった。
こちらは、私が打ち合わせで目が釘付けになった木材です。流木。海に晒されて真っ白になった木に走る繊細な黒い線がとても美しい…。
キノワさんからこの黒い線についての面白いお話をお聞きしました。
これはスポルテッド杢(もく)あるいは単にスポルテッドとも呼ばれるもので、樹木の亀裂などから雨水が浸透してその水分で繁殖したカビ菌によって発生する模様なのだそうです。
木にとってはあまり嬉しくない事態なのでしょうが、共生していた痕跡がこの線となっています。そうと知らず、私は美しいと感じる。この黒い線から本能的に何かを感じたのでしょうか?
そのようにしてこの作品は生まれました。
私の手遊び、そして額装の材と巡り合うまでの旅を、期限を設けず共に楽しんでくださった比斗子さんに心より感謝申し上げます。この作品は私と比斗子さん、そしてキノワさんとの、楽しきコラボレーションだと思っています。
余談
キノワさんが何かの足しにとプレゼントしてくださった。ふさふさ。
柄の部分のお仕事がとても丁寧。
ふさふさは少ししたら飛ぶのかなと思っていましたが、いただいた当初のまま、しっかりと形を保っています。ここが気に入ったんかな〜。普通タネ飛ばしますよね。繁栄のため。
手作りのプレゼントは素敵だなぁと改めて感じました。
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